「無印良品」調査結果 【無料資料ダウンロード】
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング(ARC)は、ミステリーショッピングのプロ集団であり、店頭のリアルな実態と、それが顧客の感情、再来店の意向に与える印象などを調査・分析するスペシャリスト集団です。好調企業の現状の“店頭の実態=FACT”を調査し、それが顧客の「また来たい」という印象(私たちはこれを『再来店動機』と呼んでいます)に与える要因などを解析することで、小売業の皆さんにこんな時代のお客さまの “琴線に触れるポイント”“また来たいと思ってもらえる勘どころ”を伝えたいと考えました。
そんな意図で始めた、この調査・分析も既に11回目となりました。毎回のご愛読を感謝しつつ、今回は無印良品(企業名は「良品計画」)をお伝えしたいと思います。
無印良品は現在“「感じ良い暮らしと社会」へ向けてグローバルに貢献する個店経営の集団”として国内535店舗、海外609店舗を展開するチェーンストアです(2023年2月末)。無印というとこれまでは“ムジラー”などと呼ばれる特別に天然、自然、環境など関心の高い顧客に、強く支持されるチェーンでした。
その無印は(もちろん強烈な支持者は健在ですが)現在は“普段”“毎日”などで日常から使われる店になろうとしています。これまで以上に広い客層に支持される“暮らしの基本を支えられる店”へと転化しようとしているのです。
品質も価格も“普段に応える” 特徴ある食品のアイテム
“普段重視”の無印にとって、重要なのはやはり食品分野です。
実際に店頭をリサーチしたARCのスタッフからも『冷凍食品が充実していた。特にキンパの種類が豊富で面白かった』『みたらし団子の冷凍も珍しく、購入意欲がわいた』などの意見がありました(『』内はスタッフのコメント)。加工食品だけでなく『お弁当、おにぎり、惣菜など昼食・夕食ともに直ぐに食べられる商品』があり、『「毎日通ってもらいたいお店」というコンセプトが感じられた』と企業の意図通りの店になっていたようです。
無印良品の食品の商品の特徴の第一は、いうまでもなく、そしてこれまでも高めてきた安全・安心です。『「オーガニック」「化学調味料不使用」など、安心安全に関する表示が多く。こだわりが感じられた』『商品の品質や良さをアピールするpopも多かった。「放し飼い卵」など』、安全安心が訴求されていました。
第二に、普段を狙う店として最近重視しているのが、その価格です。調査員からは『ちょっと高いかな、という設定だが、商品のクオリティ、デザイン、ネーミングを考慮するとそれほど高くは無い、とも感じる絶妙な設定だった』などの意見もありました。
実際にプライスレンジ(価格の幅)とプライスポイントをスタッフが調べてみました。無印は「“無印のカレー”ではなく“カレーの無印と呼ばれたい”」とHPに掲載するぐらいカレーにこだわったチェーン。そのカレーのプライスポイントは390円(税込)と明確で、実際、GMSのイトーヨーカ堂よりはプライスポイントは高いけれども品質などから考えれば受け入れられる価格なのでしょう。カレーなどでは『家で作ろうと思うと、専門的な調味料が必要になりそうで、作れそうで作れなさそうな料理の品ぞろえが充実していた』のも思わず買ってしまう商品の特徴といえます。
冷や汁やルーロー飯などの“ご飯にかけるシリーズ”も290円がプライスポイントです。この価格で化学調味料などを極力排した安全安心な1人前の簡単便利な商品が手に入れば、リーゾナブルプライス(=手ごろ価格)ということでしょう。プライスレンジが絞られているのも買いやすい売価設定と言えます。
その食品の特徴を知ってもらうために強化しているのが、第三の売場づくりの工夫、具体的にはお試しなどで食品を手に取ってもらえる環境づくりです。
『レトルトなどの食品は、小容量のものが多く、少し試してみたい場合のハードルが低く、かつ、家庭で食卓を囲む際にもショッピングセンターのフードコートのように個人個人が好みのメニューを食せるような展開がなされていた』という品揃えや、『レジ周りにはつい手を取ってしまいたいお菓子などを陳列していた』など非計画購買を促す売場づくりがそれにあたります。無印の食品の良さを知ってもらおうという工夫が売場に満載でした。
オリジナルの什器と表示で買いやすい、選びやすい売場
無印良品は商品のこだわりだけでなく、“売場づくり”の秀逸さも特徴です。著者は個人的には日本で最もVMD(ビジュアルマーチャンダイジング=売場づくりでお客さまを引き込み、手に取ってもらうための工夫のこと)が上手なチェーンのひとつと考えています。
店舗コンセプトは『食料品(生鮮含む)から、日用品、衣料品、家電、寝具と生活に必要なすべてのジャンルの商品が揃っていて、生き方(暮らし方)のトータル提案が出来ていてすごい』としっかり確立しています。そのうえで『棚の高い場所(手の届かない場所)まで商品が陳列されていてPP(ポイントプレゼンテーション)がきちんと機能』していたり、『ユニクロのように、陳列棚の上部にストックがあり、ストック自体も見せる陳列になっていて、美しかった』というように、売場には奥に引き込む仕掛けがあります。
奥に入ったお客さまは文具売場では、『無印良品の文房具 サイズや色など、多彩なバリエーションの中から自分仕様に使える文房具が選べる』し、メイク用品も『「ナチュラルメイク&しっかりメイク」などがスタッフに聞かなくてもわかるメイクのステップごとに表示していた』となっていて、シーンごとに自由に買える仕掛けがしっかりありました。
無印良品の売場づくりで特徴的なのは、陳列用の什器がオリジナル、つまりプライベートブランドであることです。
『食器とともに食品が陳列されていてイメージがわきやすかった』『無印良品を使った部屋をイメージできる陳列、ディスプレーがあった』『ほとんどの商品に、触って試せるテスターなどが設置されていて、親切だと感じた。また、専用の什器があり、商品が見やすかった』となっていて、これが『整然とした陳列と見やすい、手に取りやすい陳列が実施されていた』という印象につながるのでした。
ほぼすべてが誰もが知っているナショナルブランド(NB)のメーカー商品でなく、自社製造のオリジナルでありながら、店舗のスタッフに尋ねることなく自由に買える、セルフサービスの工夫が無印良品には満載なのです。
シンプル、しかし分かりやすいNBと違う商品のパッケージ
商品名や表示も、買物しやすい売場づくりと連動しています。
パジャマ売場では『分かりやすいサイズ表示と、「寝返りしてもごろつかないパジャマ」などとあり着用イメージが高まった』『「マチ付きで自立して保管しやすいフリーザーパック」など分かりやすい商品名と細かい商品説明があった』『「湯せんで調理ができるポリエチレン袋」などパッケージからの機能がわかる工夫があった』ので思わず買ってしまうのです。
無印の商品パッケージの特徴はそのネーミングと説明の多さです。
これも実際に商品を購入してNBと比較したスタッフがいました(このスタッフは商品開発に関するリサーチを専門としています)。
スタッフによれば、無印の商品開発の特徴は、商品自体に説明文が書かれていることと、パッケージに色を多く使わないことで、ここがメーカー商品と大きく異なることがよく分かります。これらがあらゆる商品に共通し“横串し”を通して徹底されていることが、無印良品の商品の買いやすさにつながっています。
これまで取り組んできた環境対応なども万全です。『容器と蓋がセパレートになっていたり、持ち手と先を別売りにした掃除用具を展開したりと、組み合わせを選べるだけでなく地球環境に配慮したSDGsの取り組みが見られた』『給水機「みずから、はじめよう」については、専用のボトルだけでなくマイボトルでも使用できるという親切な設計で、ペットボトル削減への取り組みが見られた』などと、SDGsの取り組みは継続されています。
フードバンクへの協力のアピールは『「お母さん、また同じもの買ってきてたよ」と娘に言われて、無印のフードドライブの活用を進めるというPOPは目を引くカラフルさだった。ストーリー性のある表示が多かった』のも興味深い表現と思います。
個店対応も強化していて『地域とつながるということもコンセプトのため、近隣店舗の紹介や、つながる掲示板を用意して、自由に宣伝できるコーナーを設けていた』など店舗ごとに掲示板の使い方、内容も店舗ごとに変えて対応しているのです。
無印良品は“特別な店”から“普通の店”“普段の店”に変わろうと考え、個々の店ごとに売場、商品、表示全てをトータルで変えようとしています。健康も安全安心も、環境も見過ごすことのできない重要な要素になった令和の現在こそ、こうした取り組みは多くの生活者の普段の生活で確実に評価されるであろうと感じた視察でした。
そうしてこうした無印良品の細かな取り組みを見れば見て、知れば知るほど、私たち他のチェーンストアも“まだまだやれることはたくさんあるのでは?”と考えたリサーチでもありました。
詳細な調査結果は「優秀チェーン7つのエクセレント」を下記よりダウンロードして頂けます。
ぜひダウンロードしてご覧くださいませ。
著者プロフィール
三浦美浩
1987年 東北大学卒業、損害保会社を経て商業界入社、「食品商業」編集長、「販売革新」編集長
2011年8月 商業界取締役就任
2017年1月 独立しロジカル・サポート㈱設立
2020年4月 エイジスリテイルサポート研究所所長に就任(兼任)、現在にいたる
長年にわたり小売業の現場に関わり、執筆活動と共に、分析や提言も行っている。
従業員教育にも関わりがあり、現場に即した研修には定評がある。
実査、報告書
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング㈱ 調査員