「びっくりドンキー」調査結果 【無料資料ダウンロード】
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング(ARC)は、ミステリーショッピングのプロ集団であり、店頭のリアルな実態と、それが顧客の感情、再来店の意向に与える印象などを調査・分析するスペシャリスト集団です。ARCのスタッフ、調査員が好調企業の“店頭の実態=FACT”を調査し、それが顧客の「また来たい」という印象(これを私たちは『再来店動機』と呼んでいます)に与える要因をお伝えするのがこの連載です。
今回は、前々回の本格的ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」、前回の1000店を超えるイタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」に続き、北海道に本社を有する株式会社アレフ(庄司大社長)が展開するハンバーグレストラン「びっくりドンキー」の視察レポートです。アレフは1968年に創業したチェーンでびっくりドンキーは国内にフランチャイズ含めて345店舗を展開(2025年3月)、“ドンキー”の店舗名には『人々の暮らしに優しいまなざしで寄り添うロバのように、社会の役に立ちたいという想い』が込められています(同社「コーポレートブック」より)。
今回も外食業の重要な3つのポイント“QSC(キューエスシー)=クオリティ、サービス、クレンリネス”の視点で評価をしていこうと思います。フードサービス3社目となった今回の「びっくりドンキー」のストアコンパリゾンは、前回までの2社とは全く違った“心地よいQSC”を感じるものでした。
パンでなくご飯、箸で食べる 日本風ハンバーグディッシュ
提供メニューはハンバーグ、ご飯、サラダがセットになったワンプレートの“ディッシュ”タイプが主力で、『木のプレートが温かみがあった』『カリフラワーライスが選べる大戸屋風のメニューが登場していた。ハンバーグがやはりおいしい』という印象もありました(『』内は別紙のダウンロード資料のスタッフのコメントより)。
『バーグディッシュやドンキークラシックサラダの野菜はかなりフレッシュで、よくあるサラダのようにしなしなした部分や変色した部分はまったくなかった』『サラダはドレッシングやトッピングの量も十分で、おいしくいただけた』と副菜のサラダも十分満足できる品質、味でした。
メニューの特徴はメーンの食材が“ほぼハンバーグのみ”で、その数が少ないこと。ハンバーグはチーズや大葉と大根おろし、目玉焼き、パイナップルなどのトッピングでバラエティがあり、また量も『ハンバーグのSMLのサイズにより、価格が異なり、それがすべてのメニューに記載があるためわかりやすかった』ということで『ハンバーグ、ご飯、サラダがセットになったディッシュメニューはコスパが良いと感じた』。
少ない食材でも、味でも量でも選択肢は十分でした。
実は今回の視察でびっくりドンキーを初めて訪れた調査スタッフもいましたが『初めてびっくりドンキーに入店した。おろしそバーグディッシュ、ドンキークラシックサラダ、イカの箱舟、ドンキーフリー(ピルスナー)、北海道ミニソフト(いちご)を注文した』。驚いたのは『ビールは同行者にドンキーハウスビール<樽生>を飲んでもらいましたが、本格的なドイツビールのような飲み口で、炭酸感が少な目で後味がすっきりしたビールだった』点でした。ビールの大麦とホップはドイツの契約農場で有機栽培したものを原料に国内製造したもので、そのこだわりがこんな印象につながったようです。
『珈琲もブレンドではなく、シングルオリジンが選べた。カップも温められていて、細長いカップで、珈琲の香りを楽しめる』と本格的、生豆も契約農場で栽培し国内自社工場で焙煎するこだわりです。
『商品の見栄えはとてもよく、掲載写真のままの料理が提供されて、イメージが良かった。メニューの説明は簡単で、写真で判断することができた』と感じました。メニュー数の少なさなどは“イコール選びやすさ”につながっていたようです。
『ごはんがおいしい』という声もあり、多くのチェーンがハンバーグと一緒に提供するパンがメニューにはありません。米もオリジナル米で農薬使用は除草剤1回以下で“畔(あぜ)を含めて殺虫剤・殺菌剤は使用不可”という厳しい基準のようです。「東北を中心とした全国400軒以上の契約生産者は、毎年“田んぼの生きもの調査”を実施するなど、生物多様性に配慮したお米作り」(同社「コーポレートブック」より)を行っています。
食事の提供には箸が添えられていて“はしで食べるハンバーグ”になっています。おいしい米と、選びやすいメニューで“日本人のニーズにあったハンバーグレストラン”が実現されているようです。
サービスは気配りの好印象 子連れもゆったりの雰囲気
サービス面でも『手を前で揃えてお辞儀をしていた』『きちんと「他に何かございませんか?」等の声がけがあった』『トイレに行こうと席を立つと、特に声掛けはないが、こちらを気にしてくれている様子を感じた』と基本通りのものでした。
『配膳時や席にスタッフを呼んだ際に、かならず声掛けと目を見てのやり取りをされていて、明確で気持ちが良く感じた』『離席時には、すべてのスタッフが立ち止まっての挨拶と分離礼を行っていて、非常に丁寧に感じた』と好印象でした。
一方、レジは『レジは完全セルフレジが2台あり、どちらも伝票のQRコードを読み取り、機械で支払う方式だった』『決済方法は、現金・クレジットカード・電子決済に対応(QR決済は非対応)していて、選択画面も明確でスムーズに支払ができた』と自動化を徹底していました。『レジや受付周辺には、スタッフは配置されておらず無人だったが、入店時にはすぐにスタッフが来てくれて、席まで案内していただけた』と、機械化でも従業員の応対は満足できるものでした。
調査員の印象では『アイコンタクトもあるが、少し笑顔が少ないとも感じた』とのコメントもありましたが、同時に同じスタッフが『ただ不快な感じではなくむしろ自然な感じで良かった(無理していないから?)』とも記載しています。
実はアレフは、筆者が長く所属していた出版社・商業界の主要なメンバーで、社是には“店は客のためにある、店員とともに栄える”と掲げています。そんな思想を反映した職場環境の追求が、こんな接客姿勢になったのかも知れません。
店内の雰囲気は『古いアメリカの外観と内装の雰囲気がよかった』ということで『店内の内装が、統一感があり、とても好みだった。暗めの色調の木材と、深い緑のソファの色味や間接照明が落ち着いた雰囲気を出していた』『座席間や、通路とのしきりも木材を多く使用しているので、半個室感があり、落ち着く空間となっていた』。こうした施設の設計と『子供が完食するともらえる「もぐチャレ」用のカードは「お名前を教えてください」と子供に声かけしながら名前を記入してくれた。暖かい接客を感じた』というサービスレベルがつながって、子供客にも、家族連れにも高く支持されているようです。
スタッフのディスカッションの中では非日常感はありながら “ホッとする店”という表現もありました。
メニュー数も少なく多彩なトッピングで選択肢は十分です。食材は少ないのでの調理場の負荷は小さいし、食器の種類も少ないので後方での洗浄、衛生管理も容易です。
前々回の「ロイヤルホスト」ほどの手作り感はなく、また前回レポートの「サイゼリヤ」ほどチェーン化、標準化した印象もない点を、「びっくりドンキー」に感じました。価格もロイヤルホストほど高くもなく、一方、サイゼリヤほどの低価格でもない中庸の売価設定です。
それが中途半端にならないのは顧客の側に“ホッとするQSC”というCS(顧客満足)と、“ゆったりした時間が流れるような接客”を可能にするES(従業員満足)が両立するという、この店の不思議な雰囲気があるように思います。とても興味深いチェーンストアのあり方を感じた視察でした。
著者プロフィール
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング編集部
1987年 東北大学卒業、損害保会社を経て商業界入社、「食品商業」編集長、「販売革新」編集長
2011年8月 商業界取締役就任
2017年1月 独立しロジカル・サポート㈱設立
2020年4月 エイジスリテイルサポート研究所所長に就任(兼任)、現在にいたる
長年にわたり小売業の現場に関わり、執筆活動と共に、分析や提言も行っている。
従業員教育にも関わりがあり、現場に即した研修には定評がある。
実査、報告書
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング㈱ 調査員